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5mm四方に30万種類2013年11月28日 23:56

DNAチップ
 今日は必要があって、毎日膨大な数の検体の遺伝子を解析しているかつて勤めた会社の後輩の元を訪ねて、最先端の遺伝子解析装置を見せて貰ってきました。

 人の遺伝子はDNAという物質が持つA、G、C、T、4種類の塩基の並び方で記号の様に表されているという話は、きっとどこかでお聞きになった方も多いと思います。

 人類であれば誰でも、基本的にDNAの塩基の並び方はほとんど一緒なのですが、ところどころに標準的な配列と1文字だけ配列が異なりやすい場所があって、どの場所で標準と異なっているかは人それぞれ違っていて、その違いが個人の外見や体質に影響しているんです。

 たとえばDNA全配列(これをゲノムと言います。)の2丁目3番地4号は標準ではAだけど、もしGに代わっていると、目の色が茶ではなくて青になるとか、6丁目1番地14号は普通はCだけど、Tを持つヒトの髪の毛は直毛でなくて縮れ毛になるとか。
 また目の色とか髪の質ばかりではなく、時にはある病気、たとえば糖尿病とか心臓病とか癌とかの、かかりやすさと1文字の遺伝子変異が関係している場合があります。
 それである個人の遺伝子変異がどことどこにあるのかあらかじめ調べておくと、その人がどんな病気にかかりやすい体質か把握できて、食事や運動やストレスなどを調整することで、病気をある程度予防することができるようになります。

 このようなことがわかってきたので、最近何かと遺伝子検査を受けてみる人の数が増えているようです。

 元後輩の職場は、このような遺伝子配列の1文字変異を専門に解析するサービスを行っている国内大手の一つで、たくさんの人の様々な場所の遺伝子変異を、一度に見つけられるように、最近、最先端の機械を入れました。

 冒頭の写真は、この最先端の機械でつかうDNAチップという道具ですが、碁盤の目のように見える5mm四方の小さな正方形の表面に、なんと30万種類の配列の異なるDNAが、無数の点として植えつけられています。
 DNAチップの上にAさんの唾液などから採取したDNA検体を垂らして検査すると、Aさんの遺伝子のどこと、どこと、どこに変異があるのかたちどころにわかって、Aさんが罹りやすい病気と、それを避けるために何が有効かがわかってしまうんですね。
 
 DNAチップ恐るべしです。

 昔は小さいけれど能力の高い機械を見かけると、よく、「きっとなかにたくさんの小人がいて、一生懸命働いているんだよ。」なんて冗談言えたけど、5mm四方に30万人の小人はさすがにぎゅううぎゅう詰めすぎて、全く想像ができません。

 すごい時代になったものです。

サギでしょう?2013年09月27日 22:45

 私の感覚では立派なサギだと思うのですが、不思議とそれほど報道もされず、警察が動く様子のない事件があります。

 大手製薬メーカーのノバルティスの大ヒット高血圧薬ディバオン(一般名 バルサルタン)の臨床データーが意図的に書き換えられて、ありもしない効能が付け足されていました。

 京都府立医科大学と慈恵医大とが、ノバルティスに依頼されてそれぞれ行ったすごく規模が大きい臨床試験で、ディバオンが他の高血圧薬では見られなかった、脳梗塞や心筋梗塞の発生リスクを低下させるという結果を得たと、医者ならば誰でも知っているイギリスの権威ある雑誌などで論文として発表しました。

 また、国内の循環器内科学会の大物たちも、ディバオンは素晴らしい薬だと大いに持ち上げました。

 その結果、多くの医師が権威ある雑誌と権威ある学者を信じ切って、「同じ高血圧薬で同じ値段で、脳梗塞なども抑えるのだったらディバオンを使おう。」ということになって、ディバオンの昨年の売り上げは1000億円を超えたそうです。

 ところが、論文が発表された当初から、試験のやり方や、日本以外の国ではそんな臨床データーが出ていないことを不思議に思った一部の研究者の追跡で、実は京都府立医大の試験も、慈恵医大の試験も、どちらも最終的にノバルティスの社員がデータをまとめて、この時にディバオンが有利に見えるようにデータを書き換えていたことが明らかになりました。

 つまり、科学的に公平な臨床試験を装って、製薬会社に都合の良い結果がねつ造されていたんです。
 実際のカルテを一つ一つ見直してみると、ディバオンは比較した高血圧薬より優れているどころか、同じかむしろ血圧を下げる効果がやや弱いくらいだそうです。

 これは、一般社会で言えば明らかにサギですよね。

 ところが今年初めにはすでに論文偽物疑惑が浮上して、4月には論文の取り下げという騒ぎになったのに、いまだに会社も個人もなんの刑事罰も問われていません。
 ここに来て、ようやく厚生労働省が、効能の誇大広告で薬事法違反の疑いで調査を開始するらしいです。

 臨床試験にかかわった医師たちも、これはすごいと持ち上げた権威学者たちも、自分たちはなんにも知らない、論文を信じただけだと被害者顔の様ですが、そんなわけがない。あまりに都合のよすぎるデータに、きっと違和感は感じていたはずです。

 嘘をついて何百億円も不当な利益を上げたのに、関係者がサギの罪に問われることが無い。
 権威と言われる科学者のくせに自分の頭で考えもせず、製薬会社からお金を貰ってディバオンを宣伝しておいて、自分も被害者だという厚顔無恥。

 世の中の権威なんて、実は一皮むけば浅ましくて臆病なリスザルが多いのかもしれませんね。
 こういう事件がきっちり検証されて責任が明らかにならないと、やったもの勝ちみたいな社会になってしまうので、是非シロクロ明らかにしてほしいものです。

難しい選択2013年08月19日 22:20

 老齢の母親に、肺に腫瘍の疑いで要再検という健康診断の結果が届いてしまいました。

 主治医にレントゲンの映像を確認して貰ったところ、やはり「なにかある。」 はっきりとは言いませんが、悪性腫瘍を強く疑っている様子で、判断力が衰えてしまった本人に代わって、私にどうするか問うてきました。
 
 子供として親に長生きして欲しいのは当然ですが、早く天国の夫に迎えに来てほしいと願う母の気持ちも大切にしたい。
 主治医からは再検査を受けないという選択肢も提示されましたが、まずは正確な状態を把握して、それから治療するのか、緩和ケアだけをするのかを考えようと思って、母にCTによる再検査を受けて貰うことにしました。

 体力的にも、気力的にもきつい夏場、遠方まで出かける再検査を渋った母を説得して、先週の水曜日何とかCT検査を受けてきました。

 そして先ほど、主治医から再検査の結果を伝える電話をもらいました。「CTでは、健康診断の時に腫瘍があると思われた場所に、なにも見つかりませんでした。」

 思わず「ありがとうございました!」と大声で礼を言ってしまいました。本当は主治医の勘違いでここしばらく不安にさせられたので、文句の一つも言っても良かったのに。

 今回は間違いで済みましたが、これからだんだんに母に残りの人生をどのように過ごしてもらうのが一番良いのか、悩んで選択をする場面が増えていくのだろうなと感じています。
 口では「早くお父さんの元に行きたい。」と言いながら、足腰が衰えて動けなくならないようにと、毎日散歩を欠かさない前向きな姿。そのどちらが母の本音なのかときどきわからなくなります。

 もしかすると、難しい選択は親が子供に与える卒業試験なのかもしれませんね。

飲めないわけ2013年07月06日 11:51

 以前にこのブログで書きましたが、わたしはお酒類がまったく飲めません。
 ビールならコップ一杯で顔は真っ赤、心臓バクバクの後、強烈な睡魔に襲われ、それも過ぎるとひどい頭痛に悩まされます。

 父親は大酒飲みで、普段の日でも晩酌にビール大瓶3本、水割り3杯、休日にはその倍くらい飲んでいたのに、息子の私が全然飲めないのは不思議でした。

 なんでこんなに飲めないのか?
 理由はアルコールの分解にかかわる遺伝子にありました。
 
 数年前にアルコール依存になりやすい体質かどうか調べる遺伝子検査のモルモットになったことがあります。戻ってきたのは、アルコールが分解されてできるアルデヒドという物質を分解する酵素の活性がほとんど無いことを示す結果。
 アルデヒドは、体にとって毒性があって、悪酔いの原因になっています。このアルデヒドを早く分解しないと、私の様に顔が真っ赤で心臓バクバク、しまいに頭痛になってしまうようです。だからアルコールを飲むといつも気分が悪くなるので、どう間違ってもアルコール依存にはならないそうです。
 
 遺伝子には父親からもらったものと母親からもらったものとがペアーであるのですが、私は父親由来も母親由来も、どちらも酵素の活性が無い遺伝子。こういうタイプは「ホモ」と呼ばれます。

 昔はお酒があまり飲めなかったけど、訓練したら飲めるようになった、けれど酔っ払いやすい方は、父親由来か母親由来のどちらか片方が酵素の活性をしっかりと持った遺伝子で、「ヘテロ」と呼ばれるタイプです。
 
 よく顔色一つ変えずにどんどん飲めちゃう、わたしから見たら神みたいな方がいますが、こういう方はたぶん父親由来も母親由来もどちらも活性が強い酵素の遺伝子で、「ワイルド」タイプと呼ばれます。欧米人はほとんどがこのタイプだそうです。
 お酒に強いのは良いのですが、アルコールの依存症になる方にはワイルドタイプが多いそうですのでご注意ください。

 ところで、最近アメリカの有名女優が遺伝子検査の結果を重く見て、将来乳がんになるリスクを減らす為、まだ正常な乳房な切除に踏み切ったことで、今遺伝子検査が結構話題になっていますよね。

 ちょっと必要があって、アメリカではどんな遺伝子検査サービスがあるのかつい先日調べてみたのですが、非常にはやっている23andMe(トゥエンティースリーアンドミー)社のサービスでは、たった$99でいろいろな病気(例えば癌、リウマチ、アルツハイマー)になるリスクや、自分の体質(巻き毛、髪の色、瞳の色、背が高い低い)など250項目も調べてくれるそうです。

 で、おもしろいなと思ったのが、23andMeで遺伝子検査をして結果を登録している人の中から、自分の親戚かもしれない人を探してくれるサービスや、自分の祖先がどこからやってきたのか教えてくれるサービスがあること。
 さすが多民族が集まっているアメリカらしいですよね。
 日本人だとせいぜい父は東北、母は九州の出くらいでしょうが、殆どの人がこの200年でよそから入ってきたアメリカでは、自分のアイデンティティとかルーツとか、とても大事で知りたいことなんでしょうね。

 でも、ある日いきなり「あんたのひいひいひいひいおばあちゃんと、おいらのひいひいひいひいじいちゃんが兄妹だったジョージだけど。」とか電話がかかってきたら、どうします?

今どきの胃カメラ2013年07月05日 23:35

 5月に受けた健康診断の胃レントゲン検査結果で、再検査に引っかかってしまいました。

 胃の下の方で、臓器が曲がっている天井部(解剖用語では胃角と言うようです)が、バリウム造影のレントゲン写真で普通はとてもなめらかなところ、がさがさに見えたらしいのです。

 それで心配した医師に、多分なんでもないけど、一応胃カメラで中を覗いてみましょうと押し切られてしまいました。

 最初からレントゲン撮影ではなくて胃カメラ検査という選択肢もあったのですが、20年くらい前に受けた時、麻酔で舌も喉も麻痺して、すごく不快だったことを思い出して、それよりはバリウムを選びました。

 当時の胃カメラ検査は、口からカメラを入れる方法で、ドロっとして苦い麻酔薬を口の中に貯めて、「飲み込むな、垂らすな、30分間出すな」との指示。看護師さんがさっさとどこかに消えてしまってから、唾液はたまるは、唇が麻痺して垂れそうになるは、味は苦いはで、検査前からとても頼りなかったことが悪い印象として残っています。
 
 やっと麻酔が効いてカメラを口から入れたら、すごく太い棒でまるで口から尻に向けて串刺しにされたような感覚で、子供の頃トノサマガエルを串刺しにした報いかと、心の中で十字を切りながらネンブツを唱えたものです。
 その串刺し状態で、胃の中をぐりぐりやられて、医師に見下されながらカメラの画像をリアルタイムで解説された時は、屈辱的な気分ですらありました。

 そんなネガティブな思い出の胃カメラ検査でしたが、
 あれから20年以上時が過ぎて、技術はだいぶ進歩していました。

 今日受けた胃カメラは鼻から入れるタイプ。
 胃の消泡財を飲んで、鼻の奥の血管を収縮させる薬をスプレーして、鼻に麻酔を入れて、全部で10分ちょっとで胃カメラが鼻に入りました。
 
 鼻にカメラが入ると、痛いんじゃないかを警戒していましたが、カメラは全く痛みを感じさせずにするりと通過、食道のところでちょっとだけ圧迫感がありましたが、それもまさしく喉元すぎればで、そのうち気にならなくなりました。
 カメラが胃の中を動き回る間、ちょっと違和感はありましたが、程度は軽くて、あっという間に検査終了になりました。

 検査の結果も、その場で全く問題無しとお墨付きを貰えて、来年は最初から胃カメラ検査にしてもらおうと強く決意しました。

 医療の進歩は、ありがたい時もありますね。