http://apricot-tree.asablo.jp/blog/img/2013/06/17/29f71b.jpg

絵本紹介(180) あのこ2015年03月22日 21:10

題名   : あのこ
文     : 今江祥智
絵     : 宇野亞喜良
発行所  : BL出版

 今日は、3月20日に83歳で永眠された日本を代表する児童文学作家今江祥智さんの絵本からご紹介です。今江さんご自身の自信作でありながら、発行が1966年ということでしばらく途絶えていたものが、つい最近復刻しました。敗戦の年の冬、山間の疎開先のお話しです。

 「わたしはうまとはなせるのよ。。。」
 疎開先の教室で、初めましてのあいさつの代わりに、あのこはそう言いました。
 あのこの家には雪の様に白い馬がいて、あのこは目を閉じればいつでも馬の背に乗って野を駆けることができました。


 ある日疎開児の中で、あのこが本当に馬と話せるのか試してみようという声が上がりました。新入りのあのこが生意気と感じていた女の子も同調します。
 そこで疎開児の一人が村で一頭だけ馬が残っている庄屋さんの家に駆け合いに出かけました。すると疎開児は村の子供たちに取り囲まれたので、あのこのことを話してしまいました。

 おもしろがった村の子たち、やきもちを焼く疎開児達に取り囲まれて、あのこは庄屋に庭先に連れてこられました。そして皆が好奇心で見守る中、庄屋の息子が納屋から連れ出したやせて気の荒い馬と向き合います。

 あのこはこわがりもせず馬の首をとんとんと叩いて、馬の耳元でぶつぶつと何かをつぶやきました。するとそれまでおびえていた馬の目の色が穏やかな色に変わり、後ろに倒していた耳は立ち上がって前を向きました。

 庄屋の男の子はあのこが馬と話を始めたことに気づきましたが、まわりの子供たちは、何もわからず、あのこに向かって早く話せとけしかけました。子供たちのざわめきが大きくなったことにおびえた馬は、突然棹立ちになって、庄屋の男の子とあのこを引きずって駆け出してしまいました。

 子供たちはあのこのことをひどい嘘つきだとののしり、あのこも言い訳をせず、誰とも話さなくなってしまいました。庄屋の男の子だけは、あのこが馬と確かに話したことを知っていましたが、言い出せませんでした。

 日本の敗戦が迫る中、戦争が子供たちの生活も大きく影響するようになっていた時期のお話しです。今から70年前を舞台にしていますが、物語の中には子供たちの憧れ、嫉妬、恋心、いじめ、あきらめなどの感情がなまなましく描かれていて、今の時代に置き換えても十分通用する話になっています。
 今江さんとよく絵本で組む宇野亞喜良さんのイラストは、昨年亡くなった米倉斉加年さんもそうでしたが、どこかエロチックな臭いがします。でも不思議と不謹慎にならないのは、きっと今江さんの物語が醜い部分も含めて生きることに正面から向き合っているからですかね。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://apricot-tree.asablo.jp/blog/2015/03/22/7595477/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。