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高級食材は実験に使わない方がいい2013年12月04日 23:00

ホタテガイ (ウィキペディアより引用)
 写真 ホタテガイ (ウィキペディアより)

【お知らせ】 12月7日(土)、8日(日)は臨時休業させていただきます。


 昨日、学生時代のみじめだったことを思い出しましたが、その後ゴージャスだった思い出も蘇ってきました。

 獣医の夢破れてなんとなく入った動物学教室では、必修単位に臨海実習という科目がありました。

 人里離れた水がきれいな海辺に構えた臨界実習所に2週間缶詰になって、海の生き物の採取だ、解剖だ、生理だ、発生だ、生態だ、と毎日めまぐるしく楽しい実習・実験の連続でした。 たしか。

 ほとんど何をしたか覚えていないのですが、味覚を通して記憶にしっかり焼き付いた実験が二つあります。

 一つ目はウニのトゲの動きを見るために生きたウニの殻が必要な実験だったのですが(目的はなんだったんだっけ?)、失敗を重ねるうちに殻にくっついたオレンジ色の身が気になって、ちょっとすくって食べてみました。

 すると電撃的な旨さ。

 海水の塩味とウニの甘さと、こくとが混ざり合って、とろけるような味わい。ビン詰のウニしか食べたことのなかった貧乏学生を目覚めさせるのに十分すぎる刺激で、それから実験は積極的に失敗して、狂ったサルのように水槽からつぎつぎ新しいウニを取ってきてはコッソリ中身を味わっていました。
 最初は真面目に実験に取り組んでいた同級生たちも、やがて私の怪しい動きに感づき、仁義なきウニの分捕り合戦へと発展していきました。
 お蔭で、次の日の別の実験用が足りなくなって、教官が慌てて漁師さんに手配していたなぁ。 あの時は言えなかったけど、事の始まりは私です。 ごめんなさい。

 二つ目はホタテ。ホタテって、リラックスしている時は口を開けて、海水を吸い込んではプランクトンを濾し取って食べています。そこに自分より大きな物体が近づくと慌てて口を閉じて、貝殻の中に入っていた海水をジェット噴射して遠くに逃げるんです。
 ところが、何回も何回も脅かしていると、そのうちちょっとぐらいでは驚かなくなって、最初よりもっと近づいてやっと逃げるようになります。これは外部刺激への馴化という現象で、言われてみればトンボだって、ネコだって似たとこありますよね。ヒトだってオオカミ少年の話があるくらいだし。

 こんな動物共通行動の確認実験を、なにもおいしいホタテを使ってやることないのに。

 私たちは、わかりきった実験を早々に片付けて、付き合ってくれたホタテくんたちに感謝しつつ、貝柱の刺身やバター焼きで早めの宴会を始めました。
 新鮮なホタテの貝柱は、「ウッソ!」と思うくらい甘くて柔らかくて、口の中でとろけていきました。バター焼きではプリップリになった貝柱と、コリコリの紐と、噛めば噛むほど濃い味が口中に広がって、幸せな夜でした。

 もう夕食も済んでいたし、当然全員実験は終えたものと思って水槽のホタテ全てを料理してしまった後で、実はひとりの熱心な同級生が、前の実験に入れ込んでまだホタテを使っていなかったことが判明。
 自分のホタテまで喰われてしまったことを知った彼はシクシク泣き始めてしまって、全員ドン引きでした。あんたも喰えばよかったのに。

 このような顛末で大自然に抱かれ、文明から隔離されて悟った教訓は、バカな学生の実験材料に高級食材を使ったらだめよという真理です。

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