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絵本紹介(43) ルリユールおじさん2013年10月28日 18:26

題名  : ルリユールおじさん
文    : いせ ひでこ
絵    : いせ ひでこ
出版社 : 講談社

 この絵本に出会うまで、ルリユールという言葉を知りませんでした。
 最初は絵本に登場する頑固そうな本修理のおじさんの名前がルリユールなのかと思いましたが、実は手作業による製本、装丁の技術を指すフランス語が"RELIEUR(ルリユール)"なのだそうです。
 「ルリユールおじさん」はパリの街を舞台に、ともに本を愛する少女とルリユール職人一筋のおじさんとの心の交流の物語です。

 ソフィーが大事にしていた植物図鑑が、ある日バラバラになってしまいました。何度も何度も読み返しているうち、本を綴じていた糸が切れてしまったのです。


 ソフィーはその本が大好きだったので、新しい本を買う気にはなれません。
 「こわれた本はどこにもっていけばいいの?」
 途方にくれるソフィーにブキニストの店主の一人が、「ルリユールのところへ行ってごらん。」と教えてくれました。


 ルリユールを探してパリの街を歩くソフィー、裏路地でやっとルリユールの看板を見つけてたものの、ちょうど店に通ってきた怖そうなおじさんを見て、入るのをためらってしまいます。


 窓に貼りついて店の中の様子をずっと窺うソフィー。そのうち店のおじさんはずっと窓から離れない少女に気づいて、ソフィーを店に招き入れてくれました。


 ルリユールのおじさんは、ばらばらになってしまったソフィーの本を見て、「こんなになるまで、よく読んだねぇ。」と優しく微笑んで、さっそく修理に取り掛かってくれました。


 ルリユールおじさんの本修理を、おじさんにまとわりつきながら注目するソフィー。そんなにくっついたら危ないよと注意しながら、おじさんは昔自分も腕の良いルリユールだった父親にまとわりつきながら、父の魔法の手を眺めていたことを思い出します。
そして自分に問います、「わたしも魔法の手をもてただろうか。」

 絵本にはルリユールが行う作業を丁寧に解説してあったり、使っている機会が精密に描かれていたり、伝統の手仕事の重みが伝わってきます。


 翌日ルリユールの店の窓に飾られたソフィーの植物図鑑。
 全く新しい、でもソフィーがもっとその図鑑が好きになるように工夫された姿で生まれ変わって輝いていました。

 そしてこのことをきっかけに、ソフィーの人生も輝いていきます。ルリユールのおじさんの手は、魔法の手だったのです。

 絵本に描かれるルリユールおじさんのすこし痩せて猫背な姿。パリの裏路地風景と溶け合って、とっても素敵な雰囲気です。 と、思いながらあとがきを読んだら、どうやら いせさんは、旅の中でおじさんのモデルになるルリユール職人のおじいさんにお会いになっているようです。実在のモデルがいるからこその重厚感だったんですね。

 鉛筆デッサンと水彩色づけの絵には西欧風の味わいがあって、やわらかくてあたたかで、とても個性的な絵になっています。

 本は今、大量出版から電子書籍の時代を迎えようとしています。
 ルリユールのような技術を持つ職人さんにとっては、とても暮らしづらい時代が続いているのでしょうが、一つ一つの本の歴史や持ち主のことを考えながら、本にもう一度命を吹き込む仕事は、たぶん芸術としてもとても価値の高い仕事なんだと思います。
 是非いつまでも残ってほしい技術です。