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絵本紹介(58) マッチ箱日記2014年01月05日 22:50

題名   : マッチ箱日記
文    : ポール・フライシュマン
絵    : バグラム・イバトゥーリン
訳    : 島 式子、島 玲子
出版社 : BL出版

 今回ご紹介する絵本は、アメリカのイタリア移民のおじいさんが、ひ孫に自分の「日記」を見せながら、きびしかった少年時代の暮らしを話して聞かせる物語です。ヒトの生きる力、明日を信じる力が感じられて、勇気を与えてくれる絵本です。

 骨董品屋のおじいさんの元に遊びに来たひ孫娘が、一つの古い葉巻の箱に興味を持ちました。
 中には古いマッチ箱がいっぱい詰まっています。


 おじいさんは、「わしの日記だよ。」と言って、「おまえくらいのころ、ひいじいちゃんは、読むことも書くこともできなかった。だから、マッチ箱にその日の思い出を入れることにしたのさ。」と説明してくれました。

 そして古いマッチ箱を順番に開けながら、おじいさんの人生をひ孫娘に話して聞かせます。


 最初に開けた箱から出てきたのは干からびた種。
 「なに、これ?」と聞くひ孫に、おじいさんはそれがオリーブの種であると教えます。自分はイタリアの生まれで、とても貧しくて床の無い家で、冬は暖房もなく、おなかがすくとオリーブの種をなめていた話も。


 次に開いた箱からはくしゃくしゃになった写真が出てきました。
 「この人は、だれ?」と聞くひ孫に、おじいさんは「わしの父さんだ。」
 自分が赤ん坊のときにアメリカに出稼ぎに出たままだったけど、一度写真を送ってきてくれたので、顔を忘れないように大切にしていたこと、その父さんから一度だけ手紙が来たとき、家族は誰も字が読めなくて、学校の先生の息子さんに読んでもらったことを話してくれました。


 その次の箱の中にはひとつのマカロニが入っていました。
 雨の降らない年があって、小麦が育たずマカロニも作れなかったので、先生に頼んで父さんに手紙を書いてもらいました。ずいぶん経ってから手紙とアメリカ行きの船のキップが送られてきましたが、一緒に暮らしていたおばあちゃんの分はありませんでした。出発の朝、おばあちゃんは「わたしは大丈夫だから心配するんじゃない!」と家族をアメリカに送り出しました。
 その先のおじいさんの物語も、みんなマッチ箱の中に仕舞われた小さな思い出の品が語ってくれました。
 アメリカまでの船旅の厳しさ。父さんと家族の再会。アメリカでも貧しく厳しかった生活。学校に通って憶えたことを、姉さんたちに教えた話。。。

   生きるために新天地に賭けた移民家族の人生が、古い葉巻の箱に納められた小さなマッチ箱の中にすっぽりと収められているなんて、そこに確かな時間が感じられました。

 ハードディスクやDVDに比べたら、何億分の一か、何兆分の一か、あるいはそれよりもっと小さな容量の記録かもしれませんが、連綿と連なる思い出の扉である分、その”重さ”はマッチ箱に軍配が上がりそうです。

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