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絵本紹介(1)2013年05月27日 20:51

 絵本屋のおやじになろうとしている割には、今まで絵本についてなにも書いて来ませんでした。
 反省してたまには心にとまった絵本を紹介してみたいと思います。

 まず最初にわたしにとって忘れられない絵本から。

 それは「かわせみのマルタン」(文 リダ・フォシェ、絵 フェードル・ロジャンコフスキー、訳 いしい ももこ  童話館出版)という題名の絵本で、たぶん4歳くらいの頃に母親から読み聞かせてもらって、ずっと記憶に残っている一冊です。

 こうして年をとってから改めてこの絵本を探して読み返してみると、決して子供向きとは言えない、むしろ本格的な観察記と言った方が良いような中身で、とにかく自然の描写が細やかで、上品で、美しい文章が特徴です。
 とても緻密な挿絵は、モノトーンとカラーが混在していて、それゆえカラーの挿絵ははっとするインパクトをもたらしてくれます。
 この細部までこだわった丁寧なつくりが、まだ4歳だったわたしの心にも強い印象を残したのでしょう。

 絵本の前半は美しい自然に囲まれた清流に暮らす様々な生きものにスポットをあてつつ、ある日マルタンという青い宝石が舞い込んで来たとことから物語は始まります。
 マルタンはやがてマルチーヌというパートナーと恋をして、巣をつくり、子を育てます。 冬になって川が凍り付くとマルタンたちは南に渡り、春にはまた戻ってきます。
 こうして6年の歳月が流れたころ、マルタンは病気にかかります。必死に寄り添うマルチーヌの願いは届かず、ある日とうとうマルタンは動かなくなり、それを追いかけるようにマルチーヌも数日後になくなります。
 主のいなくなってしまった渓流には静寂が戻りますが、ある日その静寂を切り裂くように、二羽の青い稲妻が羽音を立てて飛び込んで来ます。マルタンとマルチーヌの子供たちがつがいになって故郷に帰ってきたのです。

 私は幼いながらにこの物語から命の終わりと命のつながりを感じ取ったように思います。
 
 マルタン夫婦の話を縦軸とすると、この絵本では横軸に渓流に暮らす大小様々な生きものたちの日々の命のやり取りが描かれています。

 作者自身も命のリサイクルの中に身をゆだね、冷静な視線で自然を見つめているとても素晴らしい作品だと思います。

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