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絵本紹介(122) 多毛留2014年08月29日 19:07

題名    : 多毛留
作     : 米倉 斉加年
発行所  : 偕成社

 8月26日に亡くなった、俳優で演出家で画家の米倉斉加年さんの絵本ご紹介いたします。 ボロ―ニャの国際児童図書展でグラフィック大賞を受賞した、絵のとても素敵な絵本です。


 むかしむかし、倭の奴国に若い漁師がいました。
 若い漁師はいつも一人で玄界灘の外れまで舟を出して魚を採っていました。

 ある嵐の晩、浜に戻ってきた漁師の舟には、涙で目を濡らした一人の若い美しい女性が乗っていました。

 漁師と女性は、1年目は口をきかずに浜の小屋で暮らし、2年目に結ばれ、3年経って多毛留という男の子が生まれました。お母さんとなった女性は、多毛留を優しく育てますが、多毛留の前で、一言もしゃべりませんでした。


   多毛留が15歳になったある嵐の日、浜に親子と思われる男と男の子が打ち上げられました。その二人の顔を見た多毛留の母親は顔色を変えて、初めて何かを叫び、必死に看病します。でも母親が発する言葉は、多毛留の全く知らない言葉でした。

 実は多毛留の母親は、多毛留の父親が、海の向こうの百済の国から連れてきた人で、流れ着いた百済人の親子と家族だったのです。

 多毛留の父親は、息を吹き返した親子をモリで刺し殺そうとしますが、多毛留はとっさに父親からモリを奪うと、父親を殺してしまいます。

 倭国と百済国の両方の血を引き、民族の間に翻弄される多毛留。
 このお話は米倉さん創作の、博多弁(?)で語られたフィクションですが、目と鼻の先の日本と韓国(朝鮮)の間には、きっとこんなケースがたくさんあったのだろうな、お隣は近いなと自然に思えるお話です。

 米倉斉加年さんは、子供の頃、テレビに出ている知的で格好良いお姿を見て、あんな大人になりたいなと憧れた俳優さんの一人。また昭和の臭いがする方が亡くなられて寂しい限りです。
 米倉さんのご冥福、心よりお祈り申し上げます。