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映画「野火」見て来ました。2015年08月24日 23:59

 今日は勤めが休みだったので、少し前くらいから気になっていた映画「野火」を、渋谷のユーロスペースで見て来ました。

 「野火」は大岡昌平が昭和26年に発表した小説で、戦争末期のレイテ島での死の淵をさまよう敗退逃避行の様子を、主人公の詳細な主観で描写した作品です。
 
 戦争小説としても、文学としても傑作と呼ばれているそうですが、恥ずかしながら全く知らず、7月末に新聞で見た高橋源一郎氏の論評の中で取り上げられて知り、ついでに現在映画が上映されていることを知りました。

 高橋氏の紹介の仕方がうまかったのか、とても気になって近くの本屋で「野火」を探しても見つからず、仕方なくAMAZONで古本を取り寄せて、急いで原作の小説を読んでから、やっと今日の映画鑑賞。

 平日なのに、派手な宣伝も見かけなかった映画に、結構な数の観客が集まっていました。年代も若い方から年配まで様々。男女もちょうど半々くらい。

 話は主人公田村が結核となり、所属部隊からも野戦病院からも厄介者扱いされて野を彷徨うところから始まります。
 やがて米軍の攻撃で田村の部隊は全滅、野戦病院も焼かれて、ジャングルの中に逃げる田村。そこから、飢えと疲労に苛まれながら、生き延びた兵士たちは寄り添って集結命令の地を目指して、米軍やゲリラの攻撃で数を減らしながら落ちのびて行きます。
 しかし最後には食料はなくなり、兵隊同志が人肉を求めて殺し合う、凄惨な世界が展開することになります。

 映画の中では、逃避行で田村達が歩く道の両側に、動けなくなりうめく兵士、息絶えて靴も装備も持ち去られた死体、ウジにたかられながらまだ意識のあるけが人、すっかり変色して腐り始めた死体等々、目をそむけたくなる光景が広がっていました。
 戦闘(米軍による一方的な掃討)シーンも、銃弾にふっとばされていく兵士たちの姿が遠慮なくリアルに描かれていて、気の弱い人はショックがかなり大きいかもしれません。

 でもおそらく映画の表現は過剰ではなくて、むしろ本当の現場はもっともっと恐ろしいものであっただろうと想像します。

 故郷に居れば善良で良い市民、良い父親であったはずの兵士たちが、抗うことのできない命令ではるか南の島に送り込まれ、意味もわからず殺されて行く。あるいは生きるために終いには同朋を殺して食べてしまう。
 なんのために?誰の為に?
 明らかに狂っていた時代です。

 どうぞ二度とそんな狂気の世の中が訪れませんようにと強く祈ります。