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絵本紹介(137) とうちゃんのトンネル2014年10月19日 16:06

題名    : とうちゃんのトンネル
作・絵   : 原田 泰治
発行所  : ポプラ社

 本日のご紹介は、日本の里山風景を描いたら一番!(と、個人的に思っています)の原田泰治さんの、実体験に基づくお話が描かれた絵本です。

 諏訪の街で暮らしていたたいすけ一家は、戦後に食べ物が手に入らなくなったので、伊賀良村に移り住んで、お百姓をして暮らすことになりました。

 たいすけのおとうさんは、お百姓の仕事は初めてでしたが、親切な村の人たちの手助けで、だんだん慣れて野菜がたくさんとれるようになりました。たいすけのかあちゃんも、あんちゃんも、ねえちゃんも、みんな朝から晩まで一生懸命働きましたが、生まれつき小児麻痺で足の悪いたいすけだけは、畑でむしろに座って家族を見守りました。


 たいすけ一家の家と畑は、村の長老から、井戸を掘っても水が出ないと言われた高台にありました。雨が降らないと一日に何度もずっと下の小川まで水を汲みに行って、畑に水撒きしなければなりません。


 ある年、秋にはお嫁に行くねえちゃんに、嫁入り前に赤飯を食べさせたくて、とうちゃんは高台でお米を育てます。でもその年は干ばつがひどくて、とうちゃんとねえちゃんが朝晩せっせと水をやって大事に育てたお米は、とうとう実ることがありませんでした。

 ねえちゃんがお嫁に行った次の春、とうちゃんは決心をして裏山に横穴を掘って、水脈を探すことにします。そして、モグラのようにトンネルを掘り始めたのです。ヒトがやっとひとり入れるくらいの狭いトンネルです。



「岩をも貫く強い想い」という例えがありますが、原田泰治さんのお父さんは、娘の嫁入りに赤飯を食べさせてやれなかったという後悔の気持ちから、本当に岩に阻まれながらも山を貫いてトンネルを掘り通して、とうとう村人が見捨てた高台に水を引くことに成功します。
 そのお父さんの後ろ姿を見て育った原田泰治さんは、足のハンデを乗り越えて芸術家として大成していきます。原田さんの描く日本の故郷の絵が、とても懐かしくて暖かいのは、貧しかったけど心豊かだった幼少期の思い出に、きっと裏打ちされているからなのでしょう。

   それにしても昔のお父さんは偉大ですねぇ。ちょっとは見習いたいけど、もう手遅れかな。