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絵本紹介(97) おとなになれなかった弟たちに・・・・2014年05月29日 23:39

【お知らせ】 来週6月1日(日曜日)14時から、あぷりこっとつりーで音楽と詩の朗読のミニライブを行います。参加無料ですので、よかったら遊びにいらして下さい。

第一回 アプリコットBOXライブ
~絵本と詩、音楽と手回しオルゴールが織りなす時間~
日時 6月1日(日) 13:30開場 14:00スタート
場所 絵本と雑貨の店 あぷりこっとつりー
出演 第一部 かうは
        手回しオルゴールと歌、演奏の織りなす時間
    第二部 野本奨
        絵本と詩、アプリコットツリーの中に織りなす言葉
【絵本紹介】
題名   : おとなになれなかった弟たちに・・・・
作     : 米倉 斉加年
出版社  : 偕成社

 俳優、演出家、画家と幾つもの顔を持つ米倉斉加年さんが、自分の体験を基づいて描いた絵本です。
 題名が「弟に」ではなくて「弟たちに・・・・」となっていることから、太平洋戦争末期の食糧不足や物不足で犠牲になった、たくさんの弱い者たちに捧げられた物語なのではないかと感じながら読みました。


 ぼくの弟ヒロユキは、お父さんが戦争に連れていかれて留守の間、ぼくが国民学校の4年生のとき生まれました。
そのころ、米軍のB29の爆撃が毎日の様にあって、夜はいつも自分たちで掘ったちいさな地下室の中で眠りました。そんな心細い時でもヒロユキは泣かずに手がかからない子でした。

 その頃食べ物が十分になかったので、母は子どもたちに自分の食べ物を分け与えていたので、母乳が出なくなっていました。

 だからヒロユキの食べ物は、おもゆと月一回ひと缶だけ配給されるミルク、それが全てでした。

 今では信じて貰えないかもしれませんが、チョコレートもアイスクリームもなかった時代、ミルクは僕にとってとてもとても甘くてよだれの出る食べ物でした。

 だから僕はミルクがヒロユキに大切な物だと知っていながら、どんなに悪いかわかっていながら、ミルクを盗み飲みしました。何回も。

 ヒロユキが可愛くてしかたなかったのに、やめられませんでした。

 空襲がひどくなって、僕たちは疎開しました。
 親戚を頼っても断られたけど、親切な農家の人が部屋を貸してくれました。でも疎開した僕らに配給はありません。
 ヒロユキは病気になって入院して、10日くらいで死んでしまいました。栄養失調でした。

 母はヒロユキにたかるハエを追い払いながら言いました。「ヒロユキはしあわせだった。母と兄とお医者さん、看護婦さんに看取られて死んだのだから。空襲で爆撃で死ねば、みんなバラバラで死ぬから、もっとかわいそうだった。」
お父さんは一度もヒロユキと合うことができませんでした。



 戦争は始める時は人助けの為、自分たちを守るため、悪をくじくため。だけど一番ひどい目に合うのは結局敵も味方も含めて弱い者。と、古今東西歴史が教えてくれます。
 大好きでかわいくてたまらなかった弟。その弟の命にも値するミルクを盗み飲むことを止められなかった僕。弱い者がもっと弱い者を犠牲にしなければ生き残れなかった、そんな状況が二度と来ないで欲しいと強く思います。