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絵本紹介(90) なぜあらそうの?2014年05月01日 23:00

題名   : なぜあらそうの?
作    : ニコライ ポポフ
出版社 : BL出版

 この絵本はロシア人の作家による作品ですが、日本語版に訳者がいません。文字が無いんです。
 文字が全くない絵本なのに、恐らくどこの国の人が見てもなにが起こりつつあるのか理解して、愚かさに失笑して、自分たちを振り返ります。そんな言葉を越える力を持った秀作絵本です。

 風の無いのどかな日に、一匹のカエルが野の花の香りを楽しんでいます。


 そこに突然地中から乱暴にネズミが一匹登場。

 カエルは乱暴な闖入者(ちんにゅうしゃ)に驚いてネズミを見つめ、ネズミはじっとカエルの様子をうかがいます。
 しばらく見つめ合った後、ネズミはいきなりカエルに襲い掛かって、カエルの手から花を奪い取ってしまいました。満足そうなネズミと嘆くカエル。


 花を奪われたカエルが助けを求めると、仲間のカエルが駆けつけて、ネズミを追い払い、今度はネズミから奪い取った傘を掲げてお祝いを始めました。

 するとそこへ傘を奪われたネズミと仲間が戦車に乗って現れて、カエルたちを蹴散らして、一気にカエルたちの国に攻め込もうとします。
 攻め込まれてはたまらないカエルたちも戦車に乗って撃ち合って、ネズミの国も、カエルの国も、あっと言う間に戦争の渦に飲み込まれていきました。

   のどかだった野原は戦いで破壊された戦車の墓場となり、最初に争いをおこしたカエルとネズミの手には、ボロボロに破れた傘とすっかりしおれた花が握られていました。しおれた花と破れた傘は、つまらない物の奪い合いが、興奮を呼び、我を忘れて、命まで賭ける争いにつながる象徴です。

 作者のニコライ・ポポフは、第二次大戦中の独ロ国境近くの村に生まれそだったので、ナチスドイツの攻撃にさらられた故郷でたくさんのつらい体験をしたそうです。そして戦争の愚かさを訴える文学にも影響されて、戦争が何の意味も持たないことや、ひとは簡単に争いの輪の中に巻き込まれてしまうことを子供たちに伝えたくて、この絵本を描いたと述べています。

 この絵本を読み(見)終えて、一番悪いのは誰だ?と考えました。

 最初にネズミがカエルの花を暴力をで奪ったので、ネズミが悪い?
 でももしカエルがネズミに「こんにちは」の一言を言っていたら、どうなった?ネズミの気持ちを察して、近くの花を摘んであげたらどうなった?
 カエルの仲間がネズミと話し合ったらどうなった?

 結局、愚かな争いには一番悪いやつも一番かわいそうなやつもいないのかもしれませんね。
 読んだ人がそれぞれ争いについて考えることが、作者の願いだと思います。

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