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絵本紹介(10)2013年07月03日 18:36

 題名  : The Giving Tree
文   : Shel SilverStein
絵   : Shel SilverStein
 出版社: Harper Collins Publishers

 村上春樹さんの翻訳で「大きな木」として日本でも名作に数えられているこの絵本。理由は後ほど申し上げますが、今回原作英語版のご紹介です。

 昔あるところに一本の木がありました。
 木はひとりの小さな少年を愛していました。

 少年は毎日のように木のところにやってきて、葉っぱで冠をつくったり、幹をよじ登ったり、枝でブランコしたり、実を食べたりして遊んだり、疲れたら木陰で昼寝をしました。

 少年も木をとても愛してくれたので、木は幸せでした。

 でも時が過ぎて、少年が青年になると、めったに木に会いに来なくなりました。
 久しぶりに来ても、青年はもう木に登って遊んだりしません。
 その代わりにこう言いました。「遊ぶお金が欲しいんだ。お金をくれないかい?」
 
 木は青年にあげるお金がないことをあやまって、自分の実をとって町で売ればお金になると提案します。
 青年は木から実を根こそぎ採っていったまま、また姿を現さなくなります。

 ストーリーをあまり明かしてしまうと、まだ読んだことの無い方には興ざめですので、その後を簡単にお話しすると、

 少年は中年になり、壮年になり、老人になってそれぞれ木のもとにふらりとやってきます。そしてその都度木は自分を犠牲にして、愛した少年の望みに応えてあげます。そうすることで木は幸せでした。


 邦題は「大きな木」ですが、原題はThe Giving Tree、直訳すると「与える木」です。また原文ではこの木のことをShe(彼女)という代名詞で指しています。

 もしかしたらTreeという名詞を指す代名詞は慣例的にShe、という英語の決まりがあるのかもしれませんが、私は英語の原文を読んで、彼女と呼ばれる木に母親を重ねました。

 なぜなら、私の母はまさしくこの木の姿そのままでしたので。

 いつでも息子である私の為に、自分の食べること、着ることを後回しにして、すべてを惜しみなく与えてくれた母。
 そんな彼女から、私は物語の少年と同じように、いやもっと容赦なく、むしり取って育ちました。

 でも数年前、彼女は突然子供に戻り始めました。
 その病気は本当は悲しい病気のはずですが、私には、母と向き合う時間を与えてくれた恵みのような気がしています。 
 そしてもしかしたら、これが母が私に与えてくれた最後の贈り物なのかもしれません。


 本の紹介からずれてしまいましたが、この絵本は20代なら20代の、40代なら40代の、少しずつ違ったとらえ方、感じ方ができる広がりのある本だと思います。
 ですので、できれば手元において忘れた頃にまた読み返してみてもらうと、きっと自分の成長や成熟が実感できるのではないかと思います。

 英語ですが、短くて、中学校で習った単語や文法ばかりですし、日本語訳の絵本もありますので、ひとつ翻訳に挑戦して、ご自分の翻訳と村上春樹さんの翻訳と比較してみるのも面白いかもしれません。

 あっ、別に2冊買わせようとする作戦じゃないですよ。